えびす歯科副院長の歯内療法のブログ

歯内療法を専門にしている歯医者です

歯髄診査の重要性、神経をとる必要があるか?②

前回の続きです。

この症例のように、歯が原因なのか?鼻が原因なのか?はっきりしない上顎洞炎というのは珍しくありません。

近年は花粉症やシックハウス症候群といったように、アレルギー疾患の患者数も増加

していることから、なおさらその診断が難しいケースも増えていると言えます。

 

歯の治療も、上顎洞炎の治療も、両方必要なケースというのも考えられます。

そのような場合どちらを優先して治療すれば良いのでしょうか?

現在のところ、それについてのコンセンサスは得られていません。

つまり明確な答えはないのですが、今回のケースについては次のように考えました。

 

1、鼻症状があり、抗生剤を1ヶ月以上服用しているが改善が見られなかった

2、CT所見からも上顎洞炎は改善していないと考えられる

3、歯が原因の歯性上顎洞炎も疑われたが、診査の結果、歯髄壊死が起こっていると

いう明確な判断はできなかった

 

1と2から、まず現在改善されていない鼻症状について、耳鼻科的に

次の段階の処置の必要性が考えられます。

 

我々歯科医師は、当然ですが、耳鼻科的な処置を行うことはできません。

ですが上顎洞炎について最低限の知識は必要であると考えています。

 

特にこのケースのように長期投薬を続けても改善しない場合、次の手段として

内視鏡下副鼻腔手術(ESS)によって、鼻腔との交通路(自然口)を広げるという

外科処置が有効である可能性があります。

そこでESSが可能である耳鼻科へ紹介し、外科処置の必要性を判断していただくことに

しました。

 

そして歯科においては3が特に重要なことだと思いますが、神経の生死や、歯の保存の

可否について確定的な診断ができない場合、早急に歯を削ったり神経をとってしまった

りせず、まずは経過観察を行うということです。

これを待機的診断と言います。

 

耳鼻科に紹介後、後日ESSを行なったとのお返事をいただきました。

そして2週間後の再診時に、再度歯髄診査を行いました。

 

電気診への反応が鈍っていたのが正常に戻り、打診については若干の違和感は

あるものの前回より随分改善されていました。

Coldテストの反応はマイナスですが、反対側の健全歯も反応を示さなかったため

反応しにくい傾向があると解釈しました。

 

1ヶ月後の再診時には、鼻症状の改善とともに、歯の症状はすっかりなくなって

いました。

歯の痛みは上顎洞炎によるものであり、歯に原因はなかったということになります。

このように歯の痛みは歯が原因とは限らず、歯以外に原因があるにもかかわらず

歯の症状として現れる( 非歯原性疼痛 )といものがあり、上顎洞炎による歯痛も

その一つです。

 

特に今回の症例のように、上顎洞炎が重篤になると、近接している上顎臼歯部に

歯髄炎と似たような症状が現れることがあります。

 

もしも不可逆性歯髄炎と誤って診断し、神経を取ってしまえば、命に関わることは

ありませんが、とても大切な天然歯に不可逆的な侵襲を与えてしまうことになります。

 

歯の原因を除外し、待機的診断を行うことで、歯の神経を守る。

これも歯内療法専門医の大切な役割だと思います。