えびす歯科副院長の歯内療法のブログ

歯内療法を専門にしている歯医者です

クラックにより起こった不可逆性歯髄炎のケース

69歳女性

2ヶ月前、「右下奥歯に、虫歯のような痛みがある」との主訴で来院されました。

右下大臼歯部の咬合面は修復処置がされていましたが摩耗しており、咬合面遠心にかけ

クラックが見られました。

 

そこから2週間後「眠れないほど痛かった。頓服を3~4時間おきに飲んでいる。」

とのことで電話で連絡がありましたが、来院時には「昨日から患部周辺を冷やすと

楽になってきた。」と言われていました。

 

右下7周囲歯肉は波動を触れ、膿瘍形成を認めていました。

クラックが原因で不可逆性歯髄炎から歯髄壊死に移行している、という歯髄の状態が

推測されましたが、まずは歯髄診査を一通り行いました。

その時の診査の結果がこちらになります。

やはり右下7は冷温診、EPTには反応がなく、遠心のポケット7mmでした。

レントゲン所見。修復物は見られますが歯髄とは少し距離があるように見えます。

根尖周囲には歯根膜腔の拡大を認めました。

この日は治療説明、抗生剤、頓服を処方し次回治療の予約を取りました。

 

2週間後来院時には、「痛みはだいぶ楽になったが、噛むと痛みを感じる。」

とのことでした。

この時の歯髄診査の結果です。

打診痛に対する反応は強くなっていましたが、圧痛はマイナス。

またポケットも多少改善されていました。

前回は急性期に排膿路ができてポケットが深くなっていたのでしょうか。


歯髄の診断名:Pulp necrosis(歯髄壊死)

根尖周囲組織の診断名:Symptomatic apical periodontitis(症状のある根尖性歯周炎)

 

との診断名のもと根管治療を開始することにしました。

ですが歯髄にアクセスする前に、まずはクラックの診査が必要です。咬合面のクラック

が歯根まで及ぶ場合歯の保存は難しくなります。

修復物を除去し、クラックをダイヤモンドバーで除去していったところ、

歯冠中央部に、近心から遠心にかけてクラックを認めましたが、幸い歯冠の途中まで

で止まっていました。

レジン修復を行い、髄腔にアクセスしましたが、血流は認めず。

下顎7番に多く見られる樋状根でした。

根管充填、コア築造後のレントゲン写真

打診には多少違和感を認めるとのことでしたが、ほぼ症状は消失しポケットも

2mmに改善されました。

今後は経過観察を行なっていきます。

このように咬合面に破折線が生じ、これが髄腔に達することで歯髄炎症状を呈し

不可逆性歯髄炎や歯髄壊死を伴うといった、一連の症状をクラックトゥース

シンドロームと言います。

 

クラックの範囲を知ることは困難な場合もありますが、今回のケースのように

歯冠部に限局している場合、早期に根管治療を行い、クラックが広がるのを防止

するために、クラウン修復を行うことが有効であるとも言われています。

クラックトゥースシンドロームの好発部位として、下顎7番( 第二大臼歯 )が

あげられてますが、最後臼歯も好発部位になると言われており、7番が

クラックで喪失された場合、次は6番に起こることが考えられます。

 

天然歯であっても、今回のように摩耗やクラックが見られる場合にはもしかしたら

クラウン修復を行なった方がいいのかもしれませんが、削ることで知覚過敏が

起こる可能性もありますし難しいところです。

 

エビデンスはないのですが、個人的に就寝時にナイトガードを装着するのも

予防になるのではないかな、と思っています。

( 実は自分の歯もクラックシンドロームの危機があるため、ナイトガードを

 日々装着して寝ています汗 )