えびす歯科副院長の歯内療法のブログ

歯内療法を専門にしている歯医者です

歯髄診査の重要性、神経をとる必要があるか?①

44歳女性、主訴は"右上の歯の痛みと違和感"でした。

現病歴として、1ヶ月ほど前から鼻症状( 鼻詰まり、後鼻漏 )を認めていたため

耳鼻科を受診し、抗生剤を処方されたものの改善されず、次第に疼痛が強くなり、

右側顔面部や歯にも痛みを生じるようになったとのことでした。

 

その後、夜眠れないほど痛みが強くなり、点滴による消炎を試みたものの症状は改善

されず、耳鼻科の先生に、「歯が原因かもしれない。」と指摘されたため、早速かかり

つけの歯科を受診して、歯の状態を調べてもらったそうです。

 

すると、右上5番が電気診に反応を示さなかったため、「神経が死んでいる可能性

がある。歯を削ってみて判断しましょう。」というような説明をされたとのことでし

た。

 

患者さんは、「歯を削るって何それ?こわっ。」と思ったそうで、歯の精査を希望され

来院されました。(この方のお姉さんが当院で自費根管治療を行なっており、ご紹介いた

だいたという経緯です)

 

歯の神経の生死の判断というのはとても難しく、この方が説明を受けたように、最終

判断がつかない場合には、歯を削って判断する切削診という方法も確かにあります。

ただそこに至るまでに診査を一通りきちんと行い、取りうる他のすべての手段を講じた

上で行うべきだと思います。

なぜなら削った歯は元に戻すことができないのだから。

 

そして痛みを感じている患者さんの診査は、特に慎重に行う必要があります。

痛みにはいろいろな種類があり、歯が原因とは限らないですし、患者さんが訴えている

場所とは別の歯が原因であることもあるからです。

 

痛みの問診も重要な診査項目です。

痛みの種類や程度について詳しく調べる必要があります。

このように、患者さんの言葉で表された内容も、歯の状態を推測する上で大きな

ヒントになる場合があります。

電気診( EPT )については、他院で調べて反応がなかった、とのことでしたので

B(頬側)、O( 咬合面 )、P( 口蓋側 )の3点において行いましたが、すべて反応あり

という結果になりました。

 

反応がある=神経が生きている、という解釈ができないのが電気診の難しさですが

反応なし=神経が死んでいる可能性が高い、という解釈が有用な検査ですので、

今回反応があったため、早急に神経が死んでいるという判断は除外されるということ

になります。

ただ、冷温診にも反応はなかったため、この時点では、部分壊死など神経が死んでいる

可能性は否定できない、という判断に至りました。

初診時のレントゲンにおいて、診査を行なった歯には特に異常はみられず。

ですが、上顎洞が真っ白くなっている部分が見られました。

CT撮影を行なったところ、上顎洞全体に白っぽく見える状態(不透過性の亢進)です。

明らかに上顎洞炎が起こっています。

そして歯には病変などみられず正常。

上顎洞は耳鼻科の治療領域なのですが、このCTを見てもわかるように、上顎臼歯部は

上顎洞に近接しており、根の先が上顎洞に突出していることも珍しくありません。

そして、歯の炎症が上顎洞に波及し、鼻症状を起こしてくることもあり、これを

歯性上顎洞炎と言います。

ただ今回、歯髄診査、レントゲン、CT診査を行なった結果、歯髄壊死の可能性は

否定できないものの確定的ではなく、上顎洞炎が強く起こっているためそれに

連動し、歯の痛みが行っている可能性があると考えました。

 

→次回に続く