えびす歯科副院長の歯内療法のブログ

歯内療法を専門にしている歯医者です

上顎洞内に突出した破折器具の除去

66歳男性、主訴は「噛むと痛みがある。」とのことでした。

診査の結果はこちら。右上6は打診に対して痛みを示しており、主訴と整合性が

とれました。

そして、初診時のレントゲン写真がこちら

これは!!

非常に長い破折器具が写っています。過去の根管治療時に折れてしまったのでしょう。

患者さんによると、数十年前に県外で治療を行なった際に、折れてしまったことを

ドクターから説明された記憶がある、とのことでした。

上顎洞との関係性などを知る必要があることを説明し、CT撮影を行いました。

口蓋根内で器具が折れているのが確認できます。

また頬側2根は根管充填がされておらず、根尖には透過像が確認されました。

レントゲン、CTを見ると、長いポストは立っておらず、補綴物の除去も安全に行うこと

ができそう。

また、根管形状は比較的保たれているように思われ、再治療を行うことで、

根管治療の質を改善させることが可能であると考えました。

患者さんには、まずは再根管治療を行い、その際に破折器具の除去も試みることを

説明しました。

 

破折器具を除去すべきかどうかについては、折れている位置、破折器具の長さ等、

さまざまな角度から除去の必要性、安全性について検証する必要があります。

 

今回の場合、上顎洞内に破折器具が突出しているため、1番の懸念事項は除去中に

器具が折れてしまうこと、そして上顎洞内に迷入して取れなくなってしまうことです。

そのような場合、耳鼻科への紹介を行い、外科的に鼻腔経由等にて除去もしくは加療

の可能性のあることを説明しました。

 

補綴物、コアを除去し口蓋根をマイクロスコープで観察しました。

銀色の破折ファイルの頭が見えました。

ピンク色の部分は、ガッタパーチャ( 根管充填剤 )です。

このように破折器具を視認できる場合は、比較的除去できる可能性が高くなります。

器具に超音波で振動を与えますが、折れると怖いので周囲のガッタパーチャを除去

しながら、器具が掴みやすいように調整していきます。

洗浄用シリンジを利用した、オリジナルの除去器具の登場。

右の写真が破折器具を挟んで除去したところです。

除去した破折器具は、レンツロでしょうか? 11.5mmもありました。

患者さんは、「これが何十年も体の中にあったのか、、。」と感慨深そうに言われて

いました。

近心根には穿孔もあり、穿孔修復等も行い、根管充填後のレントゲン写真。

 

臨床症状は認めず。

3ヶ月経過のレントゲン写真。


今後は経過観察を行なっていきます。






 

 

 

 

 

クラックにより起こった不可逆性歯髄炎のケース

69歳女性

2ヶ月前、「右下奥歯に、虫歯のような痛みがある」との主訴で来院されました。

右下大臼歯部の咬合面は修復処置がされていましたが摩耗しており、咬合面遠心にかけ

クラックが見られました。

 

そこから2週間後「眠れないほど痛かった。頓服を3~4時間おきに飲んでいる。」

とのことで電話で連絡がありましたが、来院時には「昨日から患部周辺を冷やすと

楽になってきた。」と言われていました。

 

右下7周囲歯肉は波動を触れ、膿瘍形成を認めていました。

クラックが原因で不可逆性歯髄炎から歯髄壊死に移行している、という歯髄の状態が

推測されましたが、まずは歯髄診査を一通り行いました。

その時の診査の結果がこちらになります。

やはり右下7は冷温診、EPTには反応がなく、遠心のポケット7mmでした。

レントゲン所見。修復物は見られますが歯髄とは少し距離があるように見えます。

根尖周囲には歯根膜腔の拡大を認めました。

この日は治療説明、抗生剤、頓服を処方し次回治療の予約を取りました。

 

2週間後来院時には、「痛みはだいぶ楽になったが、噛むと痛みを感じる。」

とのことでした。

この時の歯髄診査の結果です。

打診痛に対する反応は強くなっていましたが、圧痛はマイナス。

またポケットも多少改善されていました。

前回は急性期に排膿路ができてポケットが深くなっていたのでしょうか。


歯髄の診断名:Pulp necrosis(歯髄壊死)

根尖周囲組織の診断名:Symptomatic apical periodontitis(症状のある根尖性歯周炎)

 

との診断名のもと根管治療を開始することにしました。

ですが歯髄にアクセスする前に、まずはクラックの診査が必要です。咬合面のクラック

が歯根まで及ぶ場合歯の保存は難しくなります。

修復物を除去し、クラックをダイヤモンドバーで除去していったところ、

歯冠中央部に、近心から遠心にかけてクラックを認めましたが、幸い歯冠の途中まで

で止まっていました。

レジン修復を行い、髄腔にアクセスしましたが、血流は認めず。

下顎7番に多く見られる樋状根でした。

根管充填、コア築造後のレントゲン写真

打診には多少違和感を認めるとのことでしたが、ほぼ症状は消失しポケットも

2mmに改善されました。

今後は経過観察を行なっていきます。

このように咬合面に破折線が生じ、これが髄腔に達することで歯髄炎症状を呈し

不可逆性歯髄炎や歯髄壊死を伴うといった、一連の症状をクラックトゥース

シンドロームと言います。

 

クラックの範囲を知ることは困難な場合もありますが、今回のケースのように

歯冠部に限局している場合、早期に根管治療を行い、クラックが広がるのを防止

するために、クラウン修復を行うことが有効であるとも言われています。

クラックトゥースシンドロームの好発部位として、下顎7番( 第二大臼歯 )が

あげられてますが、最後臼歯も好発部位になると言われており、7番が

クラックで喪失された場合、次は6番に起こることが考えられます。

 

天然歯であっても、今回のように摩耗やクラックが見られる場合にはもしかしたら

クラウン修復を行なった方がいいのかもしれませんが、削ることで知覚過敏が

起こる可能性もありますし難しいところです。

 

エビデンスはないのですが、個人的に就寝時にナイトガードを装着するのも

予防になるのではないかな、と思っています。

( 実は自分の歯もクラックシンドロームの危機があるため、ナイトガードを

 日々装着して寝ています汗 )

 

 



 

 

 

 

愛媛大学にて根管治療セミナーを行いました

10月17日、11月28日に愛媛大学にて根管治療セミナーをしました。

先生方は、非常に熱心に受講されていました。

ディスカッションも活発に行われ、私自身も楽しい時間を過ごすことができました。

素敵な個室の懇親会場で、内田教授方と楽しい時間を過ごさせていただきました。

先生方が書いて下さった、アンケートの感想も、自分のモチベーションになります。

今後もアップデートして、情報発信できるように頑張ろう!と思えた一日でした。

 

20年以上前に行われた手術の失敗の原因は?

47歳 女性。

主訴は、「歯茎に何かできている。」ということでした。

下顎前歯部歯肉に、膿瘍ができ、左下1には打診痛も強く認めました。

20年以上前に手術をした記憶があるとのことで、メスで切開した瘢痕が残って

います。

初診時のレントゲン写真。

今は使われなくなりましたが、20~30年以上前には、歯根端切除術の逆充填に

使用されていたアマルガムと思われる充填物が見られます。

またこのアマルガムが原因と見られる扁平苔癬の再発を繰り返しているということ

でした。

3本手術をしていますが、斜めに切断されていたり、歯の一部が切断されずに残って

いる状態です。

不完全な歯根の切除、逆形成や逆充填が十分に行われていないことが、失敗の原因

であると思われます。

治療計画として、まず再根管治療を行い、

その後アマルガム除去も含めて、歯根端切除術を行うことになりました。

根管充填後のレントゲン写真

左下2番根尖端が破壊されていたため、根尖にはBio-C-Repairのパテを充填しました。

1ヶ月後、歯根端切除術を行いました。

 

 

 

 

 

※以下手術写真になります。気分を害する方は閲覧をお控えください。

 

 

 

 

 

 

 

 

初診時のレントゲン写真に見られるように、従来法と言われる手術と

今回行った、マイクロスコープや超音波装置を使用して行われる方法の違いを

以下に示しました。

さらに封鎖性、生体親和性が高く、硬組織の形成を誘導するといったさまざまな

利点を持つバイオセラミック製のパテ(Bio-C-Repair)を使用することで、従来法と

比較し、高い成功率を期待できる治療となりました。

 

術後のレントゲン写真。

今後は経過観察を行なっていきます。



 













 

 



 

根管が見つからないから抜歯?

71歳の女性。

3ヶ月前に、虫歯になった左下3に痛みが出てきたため、かかりつけ医にて抜髄処置

を行うことになったそうです。

( マイクロスコープによる精密根管治療をされている先生ということでしたが )

2回根管治療を行い

「探したけれど根管が見つからないから、この歯は抜歯になるかもしれない。」

と言われたということでした。

 

その後、歯肉の腫脹や 咬合時の痛みが続いていましたが、

”どうしても歯を抜きたくない!残す方法はないだろうか?”と思い、ご友人の紹介で

来院されました。

 

左下3には打診痛を認めており、歯肉に腫脹も見られました。

初診時のデンタルがこちら

根管口探索のために、歯質が過剰に削られてしまっています。

歯髄診査の結果がこちら

左下3の診断名

Pulpal Dx : previously initiated therapy

 Periapical Dx : Symptomatic apical periodontitis

 

左下1、2と同様に、根管口部に石灰化が起こっていた可能性はありますが、

歯軸の方向を確認し、歯根の中央付近に根管口があることから探索はそう困難ではない

はずと思い、治療開始。実際予測した位置に根管口は存在していました。

ファイルを試適し穿通確認。

この日はロータリーファイルで形成、拡大まで行い水酸化カルシウムを貼薬しました。

2回目、痛みや腫れといった症状は消失していたので、根管充填まで行いました。

 

こちらは根管充填後、仮歯が入っている状態のレントゲン写真です。

根の先から少し出ているのは、根充に使用したバイオセラミックシーラーです。

根充から3ヶ月後の経過写真になりますが、根尖透過像は消失しており

症状も認めず、予後は良好です。

 

こちらは1年半経過後のレントゲン写真。

症状もなく、透過像も消失し、治癒しているのがわかります。

 

高齢になると髄腔( 神経や血管の入っている空間 )は狭窄し、根管口を探すのは

困難になる場合があります。

 

まずは歯種による解剖学的特徴、レントゲン上での髄腔までの距離の計測等

基本的事項をよく把握しておく必要があります。

 

マイクロスコープはあくまで補助的な道具にすぎず、それがあるからといって治療

の成功につながるわけではないということです。

 

 

 

歯内療法を再考する

歯科雑誌クインテッセンスから出版された、別冊 "歯内療法を再考する" に、

日本歯内療法学会でポスター発表した症例が掲載されました。

症状のある上顎7番の再治療により未処置根管を治療し、上顎洞の粘膜肥厚も消退

したケースについてです。

上下顎7番は、一番奥にあるため見えにくく、器具も入りにくいため、未処置根管

が生じてしまい、根尖性歯周炎を生じることの多い部位です。

治療前と治療後のCT写真です。

 

手術をしても治らなかった歯が再根管治療で治癒した

41歳男性の患者さんです。

主訴は、”右下奥歯を何度も治療をしているが、腫れてくる。

先生は、免疫が原因だと言って取り合ってくれない”という事でした。

”何度も治療した”、というのはよくお話を伺うと、再根管治療をして治らなかったの

で、歯根端切除術をおこなった、という意味でした。

右下6番にサイナストラクト(排膿路)ができています。

歯肉に手術の跡も見られます。

近心根に透過像をみとめ、根管充填の密度も粗であるように見えます。

近心根は根尖を切除しているようですが、逆根充はされていないようです。

根管治療はラバーダムはせずにおこなった、とのこと。

患者さんは再手術が必要だと考えられていたようですが、歯を破折させる危険性のある

ような大きな土台も入っておらず、再治療によって根管治療の質を上げることが可能

だと思われたのでまずは再根管治療を行うことにしました。

クラウンとファイバーポストを除去すると歯質が検知液で赤く染まりました。

染色部分は虫歯の残存を示しており、細菌が根管内に多く残っているということに

なります。

根管充填、歯台築造までおこなったレントゲン写真。

近心根はMTAセメントで根管充填しています。

この時点ではサイナストラクトは消失していました。

クラウンを装着し、半年度のレントゲン。

近心根の根尖透過像もなくなり、臨床症状もなく治癒は良好です。

現在3年経過しましたが、経過は良好です。

 

無菌的処置が行われていない、また解剖学的理解がなく行われた根管治療は、

歯質を削り、破折リスクを高めているだけだといえます。

手術で根の先を切除しても、当然解決にはなりません。

コンセプトを守り、適切に再根管治療を行うことで治癒したケースでした。