昨日は、徳島県鳴門市の和田歯科医院さんでのセミナーを行いました。
午前中は歯内療法についての講義を行い、勤務医の先生方のエンド症例について、
アドバイスをさせてもらいました。
楽しいお昼休憩後はハンズオンセミナーを行いました。
初めて参加の先生にはマンツーマンで。
皆さん頑張ってどんどん上達されているな、と感じられた一日でした。
72歳 女性
10年以上前に右上2と左上1を治療した。その後症状はなかったが、
1ヶ月ほど前から歯茎を触ると痛みがあり、また歯茎にプツッとおできのようなものが
できたそうです。
2歯とも打診による違和感、圧痛を認めていました。歯周ポケットは正常範囲内。
診断名:symptomatic apical periodontitis (症状のある根尖性歯周炎)
ポストの除去は可能であることから、まずは再根管治療を行うことになりました。
根管治療後、3ヶ月ほど仮歯で様子をみていました。
治療前と比較すると根の先の透過像も縮小傾向にあると思っていたのですが、
相変わらず歯茎を押さえると2本とも痛みがあるということで、歯根端切除術を行うこ
とになりました。
術前のCT写真になります。
2本行うので、歯肉の切開範囲は広くなりますが、切除は奥行き3mm程度で
難易度としては比較的易しい手術ということになるかと思います。
※以下手術写真になります。気分を害する方は閲覧を
お控えください。
歯根端切除術では、根の先端3mm程度を切除します。
根の先3mmの部分には、側枝のように根管が枝分かれした複雑な構造が集中して
存在していることが知られています。
この部分を切除し、切断面に破折等ないか、マイクロスコープの強拡大によって
観察します。
それから逆形成、逆充填といったステップを行います。
この白い材料は、ヨシダから発売されている、バイオシーリペアというものです。
( 現在は、こちらのシリンジタイプの販売は終了しており、ガンタイプのものに
変わっています )
これは、MTAセメントをはじめとするバイオセラミックス系材料と言われるもので、
生体適合性や封鎖性に優れ、抗菌性も期待されるという特徴があります。
最後に縫合して終了です。縫合は、ナイロン糸の細いものを使用します。
オペ後3ヶ月経過時の写真が右側になります。
透過像が薄くなり、術前の圧痛もなくなったので、最終の被せ物を作っていく予定です。
2024年3月23日に、
私がインストラクターとして参加している、ペンエンド関西GPコースの修了式が執り
行われました。
このコースは、一般臨床医である先生方が一年のカリキュラムを通して、日常臨床に
おいて経営的・時間的に効率よく歯内療法を行えるようにすることを狙いとしており、
短期間で先生方の臨床力を上げるのに最適化されているコースです。
今回が第2期となりますが、最終回のケースプレゼンでは、コースを受講し始めた頃
とは比べ物にならないくらい、診療のレベルがアップしており、先生方の成長を見るこ
とができて、とても嬉しく感じました。
また2ヶ月に一度のペースですが、受講回を重ねると、だんだん先生方とも親しく話せ
るようになってきて、今回で卒業してしまうのは寂しいものだなと思いました。
せっかくエンドに興味を持って、この1年頑張ってこられたので、卒業生の先生方には
これからもここで学んだことを継続的に臨床に生かしていってもらいたいなと思いま
す!
こちらが意図的再植前の、術前のデンタル写真です。
7番は意図的再植に適した歯かというと、そういうわけではありません。
意図的再植においては通常の抜歯と違い、いかに破折させずに安全に抜歯できるかと
いう点が非常に重要なポイントです。
そこには歯根の形状というのも大きく関わってきます。
歯根が単根もしくは、複根でも離開が少ないものの方が、抜歯時の破折のリスクは
小さくなります。
そしてもう一つ骨吸収の程度というのも抜歯しやすさに関わってくると考えられます。
炎症性骨吸収により歯根周囲の骨が少なければ歯は当然抜けやすくなります。
この歯は3根で離開がないとは言えないのですが、上顎なので骨密度は下顎に比べれば
低く、透過像も大きいため、適応症ではないものの、慎重に抜歯を行えばリスクは
軽減できるのではないかと判断しました。
※以下手術写真になります。気分を害する方は閲覧を
お控えください。
抜歯は20分程度と思ったよりもスムーズに抜けました。
意図的再植時の抜歯においては、通常の鉗子を使用すると滑りやすく、歯根表面の
組織( 歯根膜 )を損傷してしまう可能性があるため下の写真のような滑り止め防止加工
のされたダイヤモンド鉗子を使用し、慎重に行っていきます。
さあ抜歯してからは時間勝負になります。
Andreasen(1981)によると、歯根膜が口腔外におかれた時間とその生存率を調べた
ところ、乾燥状態では18分、生理食塩水にて湿潤状態を保てれば60分ほどである
ことが報告されており、一応安全域として20分ですべての口腔外での作業を終わら
せ、歯を抜歯窩へ戻すように行っています。
歯根周囲の肉芽をピンセットで除去し、歯根全体に破折や側枝がないか観察を
行います。
メチレンブルーという青色の染色液を使用しています。
そして歯根先端3mm程度を切除、逆形成、逆充填を行っていきます。
このケースではMTAセメントを使用しています。
そして歯を口腔内に戻して縫合し、デンタル撮影を行いました。
P根の先端のMTAが少し削れたように写っていますが、、、問題ないと判断しました。
対合歯と咬合させないようにTEKを調整しこの日は終了しました。
2ヶ月後の経過観察時のレントゲン写真になります。
症状は消失し、透過像も薄くなってきたように見えます。
炎症性、置換性吸収の兆候も見られません。
再植歯の歯根膜の治癒がおこるまで約2ヶ月ほどかかるとされていますが、この時点
においては、治癒の兆候が見られると判断しました。
その後、この方は県外に転勤されたため、67の最終補綴は紹介先で行って
もらいました。
その後、1年9ヶ月後になりますが、ちょうどこちらに寄る機会があったということ
で、経過観察を行うことができました。
症状は全くないとのことで、レントゲン写真においても透過像は見られず、歯根周囲に
は歯根膜腔らしきものも認められます。
今後の経過観察については、知り合いの歯内療法専門医の先生にお願いしようと
思っています。
また6番についても、透過像も消失し良好な予後が確認できました。
わざわざ遠方から寄って下さったので、良い報告ができてよかったです!
40歳男性、右側頬部、歯肉の腫れを主訴に3年前に来院されました。
頓服を2時間おきに服用し、氷冷されているということでした。
初診時、診査の結果はこちら
右上7に強く症状を認めていました。
レントゲンがこちら。
7番は、補綴物の適合不良、根管充填は不十分、根尖には透過像を認めます。
5番6番も根管充填については同じような状態が認められます。
患者さんに伺ったところ、根管治療時にラバーダムは装着されなかったという
ことでした。
根尖の状態を詳しく見るためにCT撮影も行いました。
根尖周囲に炎症性吸収が起こり、上顎洞底部の骨吸収、上顎洞の粘膜肥厚も見られ
ます。
歯内療法学的診断名としては
Pulpal Dx : Previously treated
Periapical Dx : Symptomatic apical periodontitis
この日は抗生剤を処方し4日後再診時には腫れは引いてきたとのことでしたが
右上7の打診痛(+)、圧痛(+)。
まずは再根管治療を行うことに。
再根管治療における成功率( 症状や透過像が改善するか )は歯内療法専門医が行なった
場合でも概ね60~70%とされており、30~40%は改善が見込めない可能性があります。
そこで治らなかった場合の次の手段として外科的歯内療法を検討する必要があります。
外科的歯内療法は2種類の方法があり、1つは歯根端切除術、もう一つは意図的再植術
と呼ばれるものです。
どちらを選択するかはケースバイケースですが、一般的に切削器具が届く限界等の理由
から上下顎7番では意図的再植術の選択が一般的とされています。
そこで症状が継続するようであれば、意図的再植も検討していくということで治療を
開始しました。
未処置のMB2根がありましたが、形成していくとMB1と合流。
根充後のレントゲン写真がこちらです。
治療前と比較して咬合痛や圧痛が軽減したものの症状は続いている状態。
また右上6についても、補綴物新製行うため、再根管治療を行いました。
その後3ヶ月ほど経過観察を行うも症状を繰り返していましたが、意図的再植を行う
ことについて、" 抜歯する "ということにどうしても抵抗がある、ということでそ
のまま経過観察を続けていました。
1年後撮影したCTがこちらです。
初診時と比較すると透過像は縮小し、上顎洞内の粘膜肥厚と思われる不透過像も
改善しているように見えますが、依然数ヶ月くらいの間隔で強く急性症状を認めており
再度相談の上、意図的再植を行っていくことになりました。
前回の続きです。
この症例のように、歯が原因なのか?鼻が原因なのか?はっきりしない上顎洞炎というのは珍しくありません。
近年は花粉症やシックハウス症候群といったように、アレルギー疾患の患者数も増加
していることから、なおさらその診断が難しいケースも増えていると言えます。
歯の治療も、上顎洞炎の治療も、両方必要なケースというのも考えられます。
そのような場合どちらを優先して治療すれば良いのでしょうか?
現在のところ、それについてのコンセンサスは得られていません。
つまり明確な答えはないのですが、今回のケースについては次のように考えました。
1、鼻症状があり、抗生剤を1ヶ月以上服用しているが改善が見られなかった
2、CT所見からも上顎洞炎は改善していないと考えられる
3、歯が原因の歯性上顎洞炎も疑われたが、診査の結果、歯髄壊死が起こっていると
いう明確な判断はできなかった
1と2から、まず現在改善されていない鼻症状について、耳鼻科的に
次の段階の処置の必要性が考えられます。
我々歯科医師は、当然ですが、耳鼻科的な処置を行うことはできません。
ですが上顎洞炎について最低限の知識は必要であると考えています。
特にこのケースのように長期投薬を続けても改善しない場合、次の手段として
内視鏡下副鼻腔手術(ESS)によって、鼻腔との交通路(自然口)を広げるという
外科処置が有効である可能性があります。
そこでESSが可能である耳鼻科へ紹介し、外科処置の必要性を判断していただくことに
しました。
そして歯科においては3が特に重要なことだと思いますが、神経の生死や、歯の保存の
可否について確定的な診断ができない場合、早急に歯を削ったり神経をとってしまった
りせず、まずは経過観察を行うということです。
これを待機的診断と言います。
耳鼻科に紹介後、後日ESSを行なったとのお返事をいただきました。
そして2週間後の再診時に、再度歯髄診査を行いました。
電気診への反応が鈍っていたのが正常に戻り、打診については若干の違和感は
あるものの前回より随分改善されていました。
Coldテストの反応はマイナスですが、反対側の健全歯も反応を示さなかったため
反応しにくい傾向があると解釈しました。
1ヶ月後の再診時には、鼻症状の改善とともに、歯の症状はすっかりなくなって
いました。
歯の痛みは上顎洞炎によるものであり、歯に原因はなかったということになります。
このように歯の痛みは歯が原因とは限らず、歯以外に原因があるにもかかわらず
歯の症状として現れる( 非歯原性疼痛 )といものがあり、上顎洞炎による歯痛も
その一つです。
特に今回の症例のように、上顎洞炎が重篤になると、近接している上顎臼歯部に
歯髄炎と似たような症状が現れることがあります。
もしも不可逆性歯髄炎と誤って診断し、神経を取ってしまえば、命に関わることは
ありませんが、とても大切な天然歯に不可逆的な侵襲を与えてしまうことになります。
歯の原因を除外し、待機的診断を行うことで、歯の神経を守る。
これも歯内療法専門医の大切な役割だと思います。
44歳女性、主訴は"右上の歯の痛みと違和感"でした。
現病歴として、1ヶ月ほど前から鼻症状( 鼻詰まり、後鼻漏 )を認めていたため
耳鼻科を受診し、抗生剤を処方されたものの改善されず、次第に疼痛が強くなり、
右側顔面部や歯にも痛みを生じるようになったとのことでした。
その後、夜眠れないほど痛みが強くなり、点滴による消炎を試みたものの症状は改善
されず、耳鼻科の先生に、「歯が原因かもしれない。」と指摘されたため、早速かかり
つけの歯科を受診して、歯の状態を調べてもらったそうです。
すると、右上5番が電気診に反応を示さなかったため、「神経が死んでいる可能性
がある。歯を削ってみて判断しましょう。」というような説明をされたとのことでし
た。
患者さんは、「歯を削るって何それ?こわっ。」と思ったそうで、歯の精査を希望され
来院されました。(この方のお姉さんが当院で自費根管治療を行なっており、ご紹介いた
だいたという経緯です)
歯の神経の生死の判断というのはとても難しく、この方が説明を受けたように、最終
判断がつかない場合には、歯を削って判断する切削診という方法も確かにあります。
ただそこに至るまでに診査を一通りきちんと行い、取りうる他のすべての手段を講じた
上で行うべきだと思います。
なぜなら削った歯は元に戻すことができないのだから。
そして痛みを感じている患者さんの診査は、特に慎重に行う必要があります。
痛みにはいろいろな種類があり、歯が原因とは限らないですし、患者さんが訴えている
場所とは別の歯が原因であることもあるからです。
痛みの問診も重要な診査項目です。
痛みの種類や程度について詳しく調べる必要があります。
このように、患者さんの言葉で表された内容も、歯の状態を推測する上で大きな
ヒントになる場合があります。
電気診( EPT )については、他院で調べて反応がなかった、とのことでしたので
B(頬側)、O( 咬合面 )、P( 口蓋側 )の3点において行いましたが、すべて反応あり
という結果になりました。
反応がある=神経が生きている、という解釈ができないのが電気診の難しさですが
反応なし=神経が死んでいる可能性が高い、という解釈が有用な検査ですので、
今回反応があったため、早急に神経が死んでいるという判断は除外されるということ
になります。
ただ、冷温診にも反応はなかったため、この時点では、部分壊死など神経が死んでいる
可能性は否定できない、という判断に至りました。
初診時のレントゲンにおいて、診査を行なった歯には特に異常はみられず。
ですが、上顎洞が真っ白くなっている部分が見られました。
CT撮影を行なったところ、上顎洞全体に白っぽく見える状態(不透過性の亢進)です。
明らかに上顎洞炎が起こっています。
そして歯には病変などみられず正常。
上顎洞は耳鼻科の治療領域なのですが、このCTを見てもわかるように、上顎臼歯部は
上顎洞に近接しており、根の先が上顎洞に突出していることも珍しくありません。
そして、歯の炎症が上顎洞に波及し、鼻症状を起こしてくることもあり、これを
歯性上顎洞炎と言います。
ただ今回、歯髄診査、レントゲン、CT診査を行なった結果、歯髄壊死の可能性は
否定できないものの確定的ではなく、上顎洞炎が強く起こっているためそれに
連動し、歯の痛みが行っている可能性があると考えました。
→次回に続く